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福岡家庭裁判所 昭和39年(少ホ)2号 判決

被告人 中丸清彦

決  定

(被告人氏名略)

右被告人に対する昭和三九年(少)イ第一五号児童福祉法違反被告事件について、当庁裁判官福井欣也が、昭和三九年八月八日なした保釈許可決定に対し、検察官安倍治夫から準抗告の申立があつたので、当裁判所は審理をおわり、つぎのとおり決定する。

主文

原決定を取消す。

本件保釈申請を却下する。

理由

本件申立の趣旨および理由は、別紙準抗告申立書記載のとおりである。

まず常習性について検討するに、被告人は、本件公訴事実として表示された犯罪を犯したと疑うに足る相当な理由があるとして勾留されている者であるが、右公訴事実をみると、その犯罪の性質、態様等から当該犯行について犯罪を反復する習性が客観的に認められるので、前科の有無、あるいは余罪の有無を問題にするまでもなく、その常習性は明白といわなければならない。

ついで、罪証隠滅の虞れの有無について考えるに、一件記録を精査すると、

一  本件は関係者が多数であること。

二  本件各公訴事実を立証すべき証拠は人証又は参考人の供述調書しかなく、しかも、そのうち重要と思料される被害児童、共犯者らは若年であるか、または被告人と密接な関係にある者であるから、もし、被告人らの側から何らかの働きかけがあれば、容易にその影響を受けやすいものといわざるを得ないこと。

三  被告人は、当時、被害児童が一八未満であつたことの認識を欠いており、かつ右認識を欠いた点について恰も過失がなつたかの如き弁解をなしているので、この点については、検察官において、特に立証上意を用いなければならないと思われるが、この点現段階では、未だ充分とはいい得ないのではないかと思われること。

四  被告人と他の参考人の供述を対比するに、重要な点、たとえば本件犯行における被告人の地位、あるいは共謀の点などについて、かならずしも一致しているとはいえず、なお真相究明の必要があること。

といつた諸事実を認めることができる。

これらに、一件記録から認められる被告人の経歴、生活態度および、本件勾留執行停止中逃走し、最近ようやくその所在が判明、収監されるに至つたといつたその性行、被告人が、本件の外形的事実については一応認めながらも、二、三の主要な点において現在なお否認していること、さらに、長期にわたり捜査機関の追究を逃れていた本件共犯者にしてその実弟である中丸凱史が最近本件により逮捕され、目下取調中であることなどの諸事情を併せ考えると、事件発覚より既に相当期間経過してはいるが、被告事件に対する陳述さえ未だなされていない訴訟の現段階においては、罪証隠滅の虞れを否定できない。

してみれば、検察官のその余の主張について判断するまでもなく、本件は既に必要的保釈の適用外にあり、また前叙の如き事由の存する以上被告人が病身であること、本件が数年前の犯行であること、被告人が別件で相当期間勾留せられ現在保釈中の身であること等を考慮に容れても裁量保釈の余地も全くなく、なお一件記録によると本件勾留による拘禁が不当に長くなつたといい得ないこと勿論であるから、到底保釈許可が相当とは認め難い。されば、本件準抗告の申立は理由があり、本件保釈を許可した原決定は、これを取消し、かつ、本件保釈申請は、これを却下せざるを得ない。

よつて、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項に則り、主文のとおり決定する。

(裁判官 門田実 岩野寿雄 織田信夫)

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